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ポストカードのはなし。

夕方ポストを覗いたら、「暮しの手帖」と印刷された封筒が入っていた。さっそく中を開けてみると、当選したらしいポストカードが5枚入っていた。ミッチを出産入院中、暮しの手帖を熟読して巻末の読者アンケートに答えたんだ。帝王切開での産後2日でまだおなかが痛い時、病室でハガキを書いて長い廊下を通りエレベーターで1階に降りて、そこからさらに歩いて守衛室の先にあるポストに出した。動くことが気分転換にも血栓防止にもなると信じて、顔を歪めながらひたすら歩いた。

いつも読んでいる暮しの手帖。入院中はあまりに熟読しすぎて、気に入った文章をキャンバスノートにひたすら「書写」した。ミッチが生後2日でNICU(新生児特定集中治療室)に入ってしまって、不安だけれど搾乳をする以外できることはなくて、もどかしい気持ちを埋めるように朝も夜もその作業に妙にのめり込んだ。書写の合間には、窓の外の愛鷹山を眺めた。

そんな彼女も生まれてから6ヶ月と3週5日。先週からゆるやかに離乳食を始めた。ありがたいことに大変すこやかに成長中。日々を進めるだけで精一杯で入院中の記憶も薄れかけていたこのタイミングに、あの日々の空気感を思い出せたことこそがギフトだ。

ポストカードと言えば。先日名古屋に引っ越してしまった友人が送ってくれたこのひつまぶしカード。

 

100円分の切手を貼ってくれてあったけれど、どうやら120円かかるらしくて、「料金不足20円」の張り紙付きで届いた。新生活の慌しい中で馴染みのない郵便局から、バタバタと出してくれたことを想像して嬉しくなった。張り紙には「ご都合の良い時に最寄りの郵便局で収めてください」と書いてあったので、散歩がてら支払いに行くことにした。

窓口で20円を払ったら手厚くお礼を言われて、なんだかいいことをしたような気になったりして。
じゃあ帰ろうと振り返ったらそこに金メダリストの岩崎恭子さんがいた。
53年生まれの同い年沼津っこ。リアルタイムで一瞬にして国民的スターになった同じ町の彼女のことは、きっとテレビで何百回も観た。ホテル時代の癖というか、オフモードになっている有名人を見つけるのが実は得意で。全くもって使えない、だからなんだという特技なんだけれど、見つけちゃったからには誰かに言いたくなって、顔見知りの局員さんにこそっと伝えたら、彼女がバックヤードに走って行ってにわかに局内がザワザワし始めた。その間2分くらい。

きっとご実家に帰ってきたついでだろうに、誰かに写真を頼まれたりしたら申し訳ないなと思いながら局を後にした。そしたら、用事を済ませた岩崎さんがちょうど別の出口から出てきて鉢合わせになった。スマートに通り過ぎればいいものを、何を思ったのか私の口からはとっさに「息子と握手をしてもらえますか?」

息子=チロ(2歳11ヶ月)。よくわからないまま手を出す。
岩崎さん=ニコニコ「私のことなんか知らないよね?」と言いながらもチロの手を両手でふわっと包んで握手。そしてそのまま立ち去る。
私=「ありがとうございました」

柔らかい雰囲気の人。ご両親が里親をしているというのをNHKの番組でみて感銘を受けたことも伝えればよかったなと後から思ったりしたけれど。友人の送ってくれたポストカードが20円足りなかったばっかりに、とってもあったかい気持ちになった出来事だった。

 

オリジナルポスト: 2017年8月31日(Amebaに投稿したものを再編集しました)

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